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見たまま、感じたまま、思ったまま

(1)男たちの旅路

男たちの旅路


男たちの旅路


このドラマを知っている人は多分僕と同世代かな?

「男たちの旅路」はNHKの土曜ドラマの1連の作品の1つとして、昭和51年から57年まで足かけ6年にわたり4部に分け、全13作が放映された。

脚本は山田太一。映画「異人達との夏」やドラマ「ふぞろいのリンゴ達」でおなじみで、暖かい人間への視線の中に、いつも鋭い社会批評の眼を忘れない人である。音楽は「ゴダイゴ」のミッキー吉野が担当。

物語は、警備会社を舞台に特攻隊の生き残りの戦中派、中年指令補の吉岡晋太郎(鶴田浩二)と戦後生まれの若者の部下(森田健作、水谷豊、桃井かおり、清水健太郎、岸本加世子など)がお互いに世代間の断絶を感じながらも、様々な事件をきっかけに共感を得ていく様を縦軸に、老人問題や 障害者問題、戦争賛美などの社会問題を横軸にして展開していく。

自らが特攻隊の生き残りであり、戦争を美化する傾向のあった鶴田浩二を主役に据え、その口を借りて戦争批判を中心に、それらの問題に対する自分の意見を鶴田の口を介して存分に喋らせていく。撮影の間、鶴田は「山田にいじめられるんだよ~」と冗談半分に言っていたらしい。

このドラマは前半(1~2部)と後半(3~4部)で趣が違う。
前半は警備会社で遭遇しがちな事件(万引きとか、強盗、飛び降り自殺など)を中心に据え、それに対する吉岡と部下達の対応の世代間のずれを中心に描いていた。後半は、警備会社は単なる舞台でしかなく、様々な社会的問題に対して吉岡晋太郎の口を借りて存分に山田太一が喋っている。

ドラマの山には、いつも鶴田浩二の厳しい説教調の台詞があり、それは他ならぬ山田太一の言葉であるのだ。

3部に「車輪の一歩」という作品がある。ここでは障害者の問題が取り上げられている。
世話をしてくれるお母さんが死んだら、自分も死ぬと言う、家で引きこもりがちになっていた車いすの少女に吉岡は言う。「お母さんはそんな事を望んじゃいない!お母さんが望んでいるのは、君が一人でもたくましく生きていけることなんだ。」
「人に迷惑をかけてはいけないというのは、社会の最低のルールで、私もどんな事があっても人に迷惑だけはかけまい・・そう思って生きてきた。」
「しかし、きみたちと出会って、考えが変わってきた。人に迷惑をかけてもいいんじゃないか?むしろかけなきゃいけないんじゃないか?」
「君たちの人生は普通の人生とは違う。どっちが上か下かと言ってるんじゃないんだよ。でも、人とは違う人生であることには違いないだろう?」「もっとどんどん人に迷惑をかけて社会に出て行かなきゃいけないんじゃないか?そしてそれを人が迷惑とか思わないようなそんな社会にしていかなきゃいけないんじゃないか?」

そして、町へ出た少女が駅の階段の下で「どなたか私を階段の上まであげてくれませんか?」と小さな声でつぶやきはじめ、次第にその声が大きくなるにつれ人が一人立ち止まり、また一人立ち止まりして、少女の周りに人があつまってくるところでこの話は終わる。

最終話のスペシャル「戦争は遙かになりて」では、荒れる学校と、戦争の記憶に絡めて、本当の勇気とは何かが語られる。
学校に夜間、学校から疎外された少年達が集まり、校舎を壊したり、警備員を襲撃する事件が頻発する。吉岡は、部下に、武器を持たない警備員は無力だから立ち向かわずに逃げろと命令する。
しかし、新聞や雇い主、警察は、たとえかなわなくても、立ち向かってこそ男ではないか・・・という論調で彼らを責める。ある日、巡回の途中でその場面に遭遇した吉岡は一人で暴漢達をやっつけてしまう。会社は名誉を回復するが若い部下に「貴方は言う事とやる事が違う。結局貴方は自分の強さを誇示したいだけなんだ」と非難される。そして、その若者は後日暴漢に立ち向かい殴り殺されてしまう。

吉岡は彼の遺骨を持ち、妊娠している彼の恋人を連れて彼のふるさと小笠原諸島へ旅立つ。小笠原で出会った彼の父親は、吉岡が特攻隊員で最後の出撃をしようとした時、故障した彼の愛機を必死で修理していた整備工であった。(その故障のおかげで吉岡は生き残ったのであるが・・)
しみじみと戦争の思い出を語り合う二人。昔の若者は勇気があった。国や家族を守るために皆自分を捨てて戦った。今の若者は・・と言う父親に吉岡は言う。
「本当にそうだったのか?我々は勇気があったのだろうか?」「戦争は本当に苦しく辛く悲しい物だった。その悲惨さをきちんと伝えて、二度と戦争が起こらないようにする事こそ自分たちの使命ではないか・・」と。

その夜、妊娠していた連れの女性の様態がにわかに悪くなり、東京へ移送する必要が生じる。しかし夜は珊瑚礁の海に飛行機は着陸出来ない。刻一刻と彼女の様態は悪化していく。吉岡は、海軍の経験から珊瑚礁の海に漁船を並べてライトをつけて着陸路を示せば、着陸出来るはずと考え、島民が総出で海に灯りを照らす。そして自衛隊から派遣された飛行機がその海に降りてくる。彼女を乗せた自衛隊機が飛び立ち、そして朝焼けが海を照らす。

同じ日の朝、吉岡の部下の一人(清水健太郎)は、長い悩みの末、意を決して好きだった車いすの女性にプロポーズをする。

この作品が作られた頃は、確か中曽根内閣がアメリカのレーガン政権と相まって、靖国参拝、自衛隊の海外派遣などが問題となり、政府の右傾化が懸念されていた時期であったように記憶している。

この時期にこういうドラマを作った山田太一は凄いと思う。

衛星放送で、最近断続的だが再放送している。
DVDも全作出た。
是非このドラマに触れて欲しい。


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